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「鐘撞き堂の君主」
0.プロローグ 1.フィーナル王国の朝 2.大時計と時の君 3.鐘撞き堂の君主 4.エピローグ 2 「贈り物を返す? そんな馬鹿な話は無いわ」 先ほどから頑として譲らない主張を繰り返すベル伯爵に、今まで黙っていたフィンも口を開いた。フィンの言葉は王に近い言葉として重要性を持つが、絶対ではない。 それがまた微妙な立ち位置なのだ。 「これは国家の危機ですぞ、姫様。我が国の“時の君”を差し置いて、他国の機械仕掛けの円盤と数字で『時』が管理されては、我が国の伝統が侵犯されます」 時の管理人だか、時の君の付き人だか、そんな触れ込みのベル伯爵。彼の顔こそ、面長で、それこそ縦長の釣鐘のようだった。叩けばいい音がするのではないかと、フィンはいつも思う。聞くところによると、ベル伯爵の悪口の代名詞はあの頭は打てばいい音が鳴る、らしい。 誰もが認める公然の事実にいつも笑いを堪えて、その顔を注視する。 今日は自分の発言に興奮しているのか、震えていた。 またその様子が可笑しい。 「ベルク王国の方は少々遅れた我らの文化の発展を願って、わざわざ特注の時計をこしらえてくださったのだ。伯爵の考えていることは邪な考えぞ」 質実剛健を地で行く、口ひげがダンディーなアレックス執政官はなだめるような口調でベル伯爵を説こうとする。 「永きに渡り国交のなかった我が国にはどんな手をつかっても、文明文化の発展に全力を注がねばならん。伯爵は文明侵略を主張するが、今は耐えるときなのだ」 「執政官殿、それは違う。我が国には我が国の、我が国なりの進歩と発展がある。我が国の誇りを捨て、今さら他国に追いつけ追い越せとは……執政官殿ともあろうお方が」 またこのパターンかと呆れるのもつかの間、物別れですなと伯爵は言い切って、議場を出る。説き伏せることが出来ない不甲斐なさにフィンは思わず頭を抱えてしまう。 「“時の君”を最大限ダシにして譲る気は無いみたいね」 「王女殿下のご活躍に危機感を持っておられるようです」 「私の活躍? どうして?」 「彼の派閥には王家ゆかりの者が多い。殿下の発言力が強くなれば、ベル伯爵を支持していた配下の者達がこぞって殿下に馳せ参ずることでしょう」 「私はまだ飾りだというの? まったく、手痛いことを言うわねぇ」 だが、その表情に自信の喪失も、ショックな様子も無い。 テーブルの下の握られた拳だけがわなわなと震える。 「恐れながら。陛下の代理とはいえ、政治を司るにはまだ日が浅いかと」 「言ってくれるわね」 フィンは苦笑する。 後ろでピクリと反応したメリッサを、制止する。ここで無礼だと騒いでも大人げない。 「殿下には、それこそ一刻も早く陛下の正式な代理となっていただきたいと思ってはおりますゆえ、前にも申し上げましたが、殿下には多少厳しい評価を下します。ある程度の無礼はご承知願いたい」 「執政官の親心に感謝するわ。あなたたちから見て、私は生意気な小娘なのでしょうね。でも、負けないわ。私は私が正しいと思ったことを実現してみせる」 その断言に、メリッサは思わずフィンの小さく震える肩に触れる。呼応するように震えは止まり、手を離す。 「よい心がけだと思われます。私は仕事がありますのでこれにて」 アレックス執政官の優雅な足取りを見送り、議場にぽつんとフィンは残った。 フィンは傍らに立つメリッサに顔も見ずに語りかける。 「本当に親心なのかしら」 「アレックスとベルの二強時代と言われていますから。殿下を取り込んで、ライバルを叩き落す格好の事件でしょう」 フィンの影は静かに言葉を紡ぐ。 「真剣に国を思い、憂い、そして愛する……言葉ではみな口をそろえていうのだけれども、なかなか権益争いの域から出ないのね。なんだか悲しいわね」 ため息の一つもつきたくなる。憂鬱な瞬間だ。 「おっしゃるとおりです。ですが、彼らも政争に負ければ職無しです。職が無ければ、それこそ食がありません。みな、食べるために必死だと思えば、かわいいものです」 「それだと、まるで私が必死じゃないみたいじゃない」 「ええ、身分が保証されていますから」 フィンは苦笑いをする。 「あなたくらいのものよ、私にそこまで言えるのは。いつかその綺麗な頬をひっぱたいてあげたいわ、真っ赤に腫れあがるまでね」 「どうぞお気の召すままに」 無感情に促す。 「張り合いの無い言い方するわねー。あーあ、なんだかあなたと一緒の格好をしているのが嫌になったわ。着替えるから手伝って」 「かしこまりました。お時間の方はよろしいのでしょうか」 「今日の予定は全部キャンセルよ。そんなに重要なことはなかったはず。それより――外に出たいのよ、噂の鐘撞き堂の様子を見に行きたいの」 次へ |
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